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MIT(マサチューセッツ工科大学)のApp Inventor開発チームが来訪されました

MIT(マサチューセッツ工科大学)App Inventor開発チームが来訪されました

MIT(マサチューセッツ工科大学)の MIT App Inventor 開発チームより、ナタリー・ラオ博士とデビッド・キム氏が株式会社ヴィリングに来訪されました。

ステモンでは、2024年度より「プログラミング&ロボティクス3rdコース」にて、 App Inventor を用いたアプリ開発を行うカリキュラムを実施しています。

今回は、ステモンでの実践報告をはじめ、 App Inventor 開発に込められた想いや教育思想、そしてApp Inventor財団の最新の取り組みなど、様々な情報交換が行われた貴重な交流の機会となりました。

MIT App Inventorとは

「MIT App Inventor(アップ・インベンター)」は、MITが提供する無料アプリ開発ツールです。

直感的で分かりやすいビジュアルプログラミング環境で、子どもでも簡単にスマートフォンやタブレット向けのアプリを作ることができます。初めて使う人でも、30分以内にシンプルなアプリを作成して動かすことができるほか、従来のプログラミングよりもはるかに短い時間で複雑で影響力のあるアプリを作ることができます。

▼ App Inventor についての解説記事はこちら

|App Inventor(アップインベンター)とは?子ども向けiOS/Androidアプリ作成ツールの特徴と使い方

https://www.stemon.net/blog/blog-appinventor/

ステモンとApp Inventor

ステモンでは、2024年より「プログラミング&ロボティクス3rdコース」にて、App Inventor を使用したアプリ開発をカリキュラムに導入しております。

スマートフォンで使えるアプリ開発を行うことで、身の回りの社会問題を解決する技術を身につけるとともに、スマートフォンに搭載されている多彩なセンサーを使ったり、見た目や操作性など、人が使いやすいデザインについても意識しながら制作をしていきます。

どのような社会問題があり、どのようなアプリがあれば解決することができるか、試行錯誤しながら開発に取り組むことで問題解決能力を養います。

▼App Inventor を使用したレッスンの紹介はこちら

来訪されたお二人のご紹介

写真左から ナタリー・ラオ博士、デビッド・キム氏、弊社代表中村

Natalie Lau ナタリー・ラオ

ナタリー・ラオ博士は、App Inventor Foundation ( App Inventor財団 ) のエグゼクティブ ディレクター

David Kim デビッド・キム

デビッド・キム氏は、MIT App Inventor のソフトウェア開発者

今回来訪されたお二人は、MITの研究者として活動する一方で教育分野にも非常に関心が高く、ナタリー博士はMITで初めてAIと教育に関する論文を作成した方でもあります。

交流のハイライト

1,ステモンでの実践報告

ステモンのカリキュラムや使用教材、プログラミング&ロボティクス3rdコースのレッスンの様子をご紹介しました。プログラミング&ロボティクス3rdコースには多くの小学生が在籍しており、小学生が英語でApp Inventorを扱っていることに感銘を受けていました。

また、小学生向けのカリキュラムに関する改善点や、App Inventorを日本語対応にアップデートする際のポイントについて意見を交わしました。

2,徳島県松茂町でのSTEAM教育事例の紹介

ヴィリングでは、2021年から徳島県松茂町でSTEAM教育支援を行っています。松茂町でのSTEAM教育の事例について、動画や写真を交えて紹介しました。

また、JST(科学技術振興機構)が運営するSTEAM教育サイト「サイエンスティーム」にも授業事例が掲載されていることを紹介し、公教育でのSTEAM教育の実践についてディスカッションしました。

▼徳島県松茂町でのSTEAM教育事例の記事はこちら

|STEAM授業から考える地域防災

https://www.stemon.net/blog/20220413-steam-case-nagahara/

3,App Inventor 開発に込めた想いと教育思想

App Inventor は2012年に開始され、現在では全世界で約1120万人が利用し、200もの国と地域に広がっています。

そして、その48%は貧困国に集中しています。今やスマートフォンは発展途上国でも広く普及しており、世界中で身近な存在となっています。これが、App Inventor がスマートフォンアプリ開発ツールである理由の一つです。

App Inventor の本当の目的は「プログラミングを教えること」ではなく、「身の回りの社会課題を解決するインパクトのある開発を支援すること」にあります。発展途上国でも、若い人々が学び、何かを変えたいという意欲を持ったときに、自ら社会課題を解決するアプリを開発できる環境を提供すること。そして、途上国においてもテクノロジーの利用者から創造者へと成長し、ソフトウェア開発を手軽に行えるものにすることが、App Inventor の開発に込められた想いなのです。

App Inventor 開発にあたって重視された教育思想は、「コンストラクショニズム」「セルフエフィカシー」「From computational Thinking to Computational Action(計算論的思考から計算論的実践へ)」です。

コンストラクショニズム

コンストラクショニズムとは、「つくりながら学ぶ」という学習手法です。手を動かしながらいろいろな素材を活用して構築していく過程で、考え、試し、気づいていくことを重視します。

コンストラクショニズム学習理論は、ステモンのカリキュラムの根幹となる理論でもあります。一般的な学校や塾の集団授業では、先生から一方的に知識を受け取ることが中心ですが、コンストラクショニズムでは子どもたちが主体的に知識を「構築」します。既存の知識や経験と、目の前の新しい体験を組み合わせ、自分で考えながら学ぶのがコンストラクショニズムです。

▼コンストラクショニズム学習理論について、以下記事内でも紹介しています

|ピアジェの認知発達理論を解説!子どもの成長をサポートするために知っておきたい4つの発達段階とは?

https://www.stemon.net/blog/piajeninchihattatsuriron/

セルフエフィカシー

”自分が望ましいと思う状態を表現できる自信を持っていること”で、日本語では「自己効力感」と表現されます。

AIを学ぶことと自己効力感との関連性は非常に高く、例えば、自己効力感の育成に”成功体験をなるべく早く持つ”という経験は有用ですが、 App Inventor では最初のアプリをわずか30分で作成することが可能です。また、”ロールモデルを色々な形で示す”という点においては、アプリ開発者がいわゆる「システムエンジニア」と聞くと誰もが思い浮かべるようなステレオタイプな人物像ではなく、貧困地域の若者が社会課題を解決するアプリを開発した事例など、「自分でもできる」と思うことで自己効力感は高まります。

From computational Thinking to Computational Action(計算論的思考から計算論的実践へ)

"コンピュータ科学的な問題解決思考にとどめることなく、実践に移していく”という考え方です。

貧困家庭の子どもたちにおいては、理論だけ学んでも自分には関係ないと思ってしまう計算論的思考から、自分の生活に直結するインパクトのある結果を残すという計算論的実践へシフトしていくことが重要です。そうすることで、「自分も技術を使って何かができる」という感覚を持つことができ、自己効力感の向上にも繋がります。

以上のような思想から App Inventor は開発され、世界中に普及しています。

日本のユーザーは1万7千人とまだまだ少ないですが、海外には App Inventor を学校教育に取り入れている国もあります。今後ますます広がりを見せ、ソフトウェア開発が誰でも手軽にできるような世の中になっていくでしょう。

4,App Ivnentor財団の最新の取り組み

グローバルAIハッカソン(Global AI Hackathon)の開催

「グローバルAIハッカソン」は、MIT RAISEとApp Inventor財団が主催するハッカソン(※)で、世界中の人々に社会貢献のためのAIアプリの開発を促進することを目的としています。MIT App Inventorを使用して、創造性、社会的影響力、およびAIに関する技術的理解を示すAIアプリを開発することを目標としています。

全世界から91ヵ国・1078人が参加し、参加者年齢の中央値は16歳、55%は発展途上国からの参加だったそうです。

入賞作品には、片目に視力障害を持つ少女が開発した、AIの画像認識機能を用いた動作物に反応しアラートを出す音声アプリや、地中に埋め込んだセンサーでデータを集め、雨量や地滑りを検知し災害を予見するアプリなど、社会的弱者や貧困地域の課題を解決するものが並びました。

(※)ハッカソンとは
「ハック(Hack)」と「マラソン(Marathon)」を組み合わせた言葉で、エンジニアやプログラマーなどが集まり、短期間で新しいソフトウェアやアプリを開発するイベントのこと。参加者は特定のテーマに基づいてプロジェクトを作成し、最終的にプレゼンテーションをして評価される。

国連AIコンピテンシーフレームワーク

世界共通のAIに関する指導要領を国連が準備しており、その活動にApp Inventor財団が関わったそうです。

AIで何を学ぶのか、レベル・分野別にAIの倫理観やAIを使った問題解決の方法が体系化され、そのフレームワークの半分は、コンピューターを使用しない、発展途上国でも実施できる内容となっているそうです。ルーマニアですでに実施されており、9月初旬に公開されるとのことです。

アメリカ3州にて、教員向けに App Inventor 研修

マサチューセッツ州、テキサス州、カリフォルニア州の3州にて、学校現場でのApp Inventor 活用ついての研修を実施し、延べ100名が参加しました。この研修の目標は、上位数名にアンバサダーという賞をつけ、今後はそれぞれの地域で先導して指導していける人材にすることです。研修を受けて終了ではなく、実践に向け各地域で拡大させていく取り組みがなされています。

 

以上のような活動を通じて、MIT  App Inventor プロジェクトは、世界のAIと教育分野に広く貢献されています。

まとめ

今回の交流は、STEMONでの実践報告から App Inventor 開発に込めた想い・教育理念に至るまで、様々な情報共有やディスカッションのできた、非常に貴重な機会となりました。

教育思想として掲げられていた「コンストラクショニズム」や「セルフエフィカシー(自己効力感)」においては、まさにステモンがカリキュラムの根幹としているものであり、今後ますます台頭していくAI時代において必要となる「頭の中で考えているだけではなく実践に移していく(計算論的思考から計算論的実践へ)」ための基盤となる力であると改めて感じました。

今後もMITと情報交換させていただきながら、カリキュラムのさらなる充実を図り、次世代の教育に貢献できるよう取り組んでまいります。