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公教育とSTEAM教育のプロが連携した一年を振り返る

オンラインミーティングの様子
2022.04.21

ヴィリングと連携したSTEAM教育を地域の公立小中学校すべてで導入した徳島県・松茂町。4つの学校を代表し、長原小学校の安友国仁校長とともに一年を振り返りました。

全校児童10名の長原小学校。授業は年間12回実施し、毎回2年生から6年生全員が同じ教室に集まりました。学年に応じた目標やめあてはあるものの、プログラミングの基礎的な考え方については全学年同時に取り組んだ一年間でした。

(中村先生、以下中村)当初、2年生と6年生の授業を一緒に進めていく、というのはハードルが高いと感じていたんですよ。でも実際に授業が始まると、2年生もどんどん習得し、自分で作っていける。これは大きな発見でした。もちろん先生たちのサポートが充実する環境だったことも大きいと思います。
(安友校長、以下安友)できるようになったことをみんなで喜び、それを中村先生に評価していただけたことは嬉しかったですね。ドローンも、もう一度やらせてみたかったです。

ドローンを操作する子どもたち

「総合学習×プログラミング授業」のお手本のような授業展開

(中村)前半はプログラミングとはなにか?から始まり、ビスケットやスクラッチの基本的な操作方法を学び、さらに習得したものを社会の問題解決に活かす、という展開ができ、総合学習×プログラミングのお手本のような授業展開ができたと思います。
(安友)最後にはスクラッチで作った動画を、長原地区の避難所である「津波防災センター」のモニターに映してみました。危機管理課の方に見ていただいたり、地元の新聞にも取り上げられたり、地域の方にも喜んでいただけたことは、子どもたちの励みになりました。
(後藤先生、以下後藤)防災センターでの発表を見たときは、子どもたちが学んだ技術を使って自分たちで地域の問題解決に取り組めたことにとても感動しました。

スクラッチを活用した防災に関する動画づくりについてはこちら

防災センターを訪れる子どもたち

GIGAスクール構想の広がりと公教育での活用

(安友)コロナ禍でタブレットが全校、全児童に届き、校長会もzoomになるなど、リモートを使わなければならないという状況が高まりました。
当初はつながっていく側でしたが、授業のなかで気仙沼の吉田さんにインタビューをすることになり、ホストになるにはどうするか?アカウントをとってみようかと先生たちも自ら考え動き出しました。
「できる」ということがわかると、今度はそれを活かしてなにかやってみたい、こんなこともできる、とベースが明らかに上がったと感じています。

コロナ禍での対応について語る安友先生

(安友)小学校の教員は真面目な人が多い気がするので、同じスクラッチを使ったとしても「詰め込みすぎる」「マニュアルに沿って力をつけさせる」という授業になってしまいますが、中村先生の場合、ご自身に自信やスキルがあるのでどんな質問が来ても、どんな状況になっても対応されていて、こんなふうに学びの幅を広げていく授業スタイルもあるんだと知ることもできました。

プログラミングの指導をする中村先生

できた喜びや失敗の体験が「もっと学びたい」につながる

(安友)中村先生の授業で、生徒たちは着実に力をつけていきました。また成果発表の場を持ったことで、出力するためにさらにスキルが必要だと分かりました。
(後藤)表現力があり、すばらしいものを作れたけれど本番でうまく発表できなかったという場面もありました。そうしたことも含めて技術やスキルが必要だと子どもたち自身も感じられたのではないでしょうか。

(安友)良い作品ができると「もっと面白くしたい」「もっとキャラクターを躍らせたい」「ゲームのようにひとつの動きに合わせてもうひとつを動かしたい」など、やりたいことがどんどん出てきました。

笑顔でオンラインミーティングする中村先生

(中村)そうでしたね。12月以降に「もっと新しい難しい技を教えてほしい」という声が上がってきたので、乱数、変数、クローンをつくる、などを学べるよう授業を広げました。1年間でここまでいけるんだと正直驚きましたし、長原小学校の3人は、すごいスキルを持って中学校に進学していく、という状態になりますね。

プログラミングやICTスキルの格差を課題ととらえるか

(安友)もちろん、「いまできること」については差がうまれると思います。が、プログラミングについては、私たちの世代以上に、生徒たちはその差を簡単に乗り越えられるのではないでしょうか。
現時点で差があったとしても、一緒に学びながら教え合ったり、他の人を見て刺激を受けたり。個人差は当然ありますが、今の子たちは小さい時からタブレットやスマホを触っているので、大丈夫なんじゃないかなと思います。

中村先生の授業を受ける子どもたち

(安友)それよりも、英語などの語学でも同じですが、好きになる子、苦手に思う子が出てくるので、「できないこと」にぶつかったときにどう解決するか、学校や教師がどう対応していくか、ということが重要かもしれません。

自尊感情や自己有用感を育めるプログラミング授業

(中村)授業では校長先生も後ろの方で一緒に取り組んでくださり、できたら「あ!できた!」と声を上げて喜んでおられたのも印象に残っています。
(安友)子どもたちができてるのに自分ができてないと焦りましたね。でも長原の子たちは、わたしに教えてくれるんですよ。「思ったように動く」という成果が見えると本当に嬉しいし、できないことがあっても互いに「教え合う」という場面が自然と生まれました。こうした積み重ねは、自尊感情や自己有用感を高める一助になると考えています。

生徒目線に立ってプログラミングの指導をする中村先生

(中村)動かせた!というのはダイレクトに自尊感情につながっていきますね。
それぞれが作品をつくり、互いに見せ合い、他の人の考えや表現の違いに触れる。プログラミング授業を通して、自己有用感や人権教育にもつなげられると思います。
(安友)松茂町は地域全体で子どもたちの自尊感情を高めようと力を入れているので、ぜひそうした観点も取り入れたいです。

先生向けのワークショップや研修でより良い継続を

(安友)個人的にも一年間だけではもったいないと感じていたので、2022年度も引き続き中村先生の授業が実施できると決まり、とても喜んでいます。
(中村)年度が変わり、先生たちの入れ替わりもあるなかで、より良く継続するためにどうしたらいいでしょうか。
(安友)徳島県の教育委員会ではメンター制度の導入を推奨しています。例えばプログラミング授業では、経験者と初めての人とをペアにし、中村先生や後藤さんから課題をもらい発表する、というワークショップはどうでしょう。難しくなくてもいいから、なにかが「できた」ということを先生たちの意欲につなげていけるのではないでしょうか。
(中村)なるほど。先生向けのワークショップや学びの場をつくれば、その先生がまた次に異動しても伝播していきやすいかもしれませんね。

意見交換をする先生たち

(安友)先生同士の人間関係づくりにも活用し、また自分たちが楽しかったことを子どもたちに伝えよう、と授業につながっていくと理想的ですね。

プログラミングやSTEAM教育の浸透と保護者への発信

(安友)文章で伝えるのが難しく、保護者の方が忙しいこともあり、思いのほかプログラミング授業やSTEAM教育の重要性が伝わっていません。
実は一度、参観日にタブレットをつかっているところを見てもらったんです。すると「こんなことができるんだ!」と保護者も驚いておられました。
2022年度は中村先生に参観日の授業をお願いしたいと思っているんです。内容によっては保護者も一緒に取り組めたり、子どもの方が達者なのでおうちの人に教えることもあるかもしれません。
(中村)参観日、ぜひやってみたいですね。発表までできるようにすると、親御さんの個性が見えて面白いかもしれません。

笑顔で話す安友先生

(安友)私自身は2022年度に地元の阿波市へ異動することが決まっています。が、松茂町の地域創生交流拠点であるマツシゲートを訪れてステモンを見せてもらったり、松茂の小中学校と交流する場面をつくったり、中村先生から学んだことを授業づくりや研修につなげていきながら、点、線、面と広げていきたいと考えています。
(中村)他校に比べると、密に継続して子どもたちに伝えられた長原小学校での授業は、私にとっても初めての体験でした。子どもたちがこんなに成長できるんだと痛感しました。どうすれば他の学校でも近しいことができるのか、と考えていく大きなヒントをいただきました。本当に一年間、ありがとうございました。

笑顔で話す中村先生

ライター紹介

宮本幸子(みやもとさちこ)/地方でも実現できる「プログラミング的思考を育むSTEAM教育」に関心を持ち、株式会社ヴィリングが提供する公立小中学校のSTEAM教育を取材。タウン誌の編集やラジオリポーターを経て、現在はライター・講師として活動。徳島県在住、二児の母、1980年生まれ。