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STEAM教育と地方創生 アントレプレナーを育成する授業

松茂中学校でのSTEAM授業の様子
2022.04.21

STEAM教育と地方創生
アントレプレナーを育成する授業

ヴィリングと提携した松茂町の教育委員会の取り組みを取材し、徳島でも東京の子どもたちと同じようなSTEAM教育やプログラミング授業が受けられる、ということが分かってきました。それは、地方で子育てする私たち親世代にとって、未来を明るく感じさせてくれるものでした。

低学年では、自分の思っているものをカタチにする力を伸ばせるようのびのびと表現させていたのが印象的でした(事例②松茂小学校の記事)。
高学年には、「人の役に立つか」「暮らしが便利になるか」と地域や社会へ視野を広げる仕掛けがありました(事例①長原小学校の記事)。

生徒にプログラミングの指導をする中村先生

「興味や関心があればカリキュラムや教科学習を飛び越えた情報や技術も伝えます。」


小学校でのSTEAM教育の実現が生徒たちの好奇心の枝葉を広げる糧になる、ということが体感できる授業展開。一方で、中学生になってから突然「プログラミング授業」がスタートした生徒たちは、どう学んでいくのでしょう。そもそも、STEAM教育のなにから伝えていけば良いのでしょうか。そこで今回は、松茂中学校のSTEAM授業の様子を覗いてきました。

STEAM授業から考える地方創生

これまでも、実験や体験を通して興味の扉をたたき、深く知りたいと感じることがSTEAM教育の基盤だと話していた中村先生。中学校では、中学生の知識・興味・関心に沿って「面白そう」「なるほど」を引き出す授業を計画していました。

「たとえば、中学生二年生には、新規事業企画というプロジェクトを通して、『誰に?』『なにを?』『なぜ?』といった思考を組み立てるSTEAM教育にしていきます。そこにはアントレプレナー教育の手法も取り入れます」。

松茂中学校でのSTEAM授業の様子

「起業家教育は、社会の課題を”自分ゴト”にしていくための次世代育成です。」


「新規事業をつくろう」「新規商品を開発しよう」と伝えても、突然ものづくりができるわけはありません。

中村先生は、まず授業の中で、思考を柔らかくする「考え方のコツ」から伝えます。
「有名チェーン店『吉野家』の競合は?」と問いかけると、生徒たちの頭の中に同業種の店舗名が浮かびました。

「もしも『早くごはんを食べたい人にとって』だと、ほかにはどんなお店がライバルになる?『駅前の飲食店のなか』で考えると?」。
すると、生徒たちの表情が変わります。

「ものの見方を変えると、違った答えが見えてくる」という思考を生徒たちに体感させた瞬間でした。

黒板の前に立つ中村先生

「次世代育成という地方課題に取り組めるのも、ヴィリングのSTEAM授業ならでは。」


授業では、聞いたことのあるアプリや身近な企業、初めて耳にするビジネスの話題から、マーケットのニーズの変化や課題解決の面白さを学んでいきます。

「毎日食事をつくる人の不満や不便を解決するために生まれたクックパッド」
「ディズニーランドの提供している価値とは」
「農業から考える未来課題を解決するアグリメディア」

これまでの経験や学校で学んだ知識など、さまざまな要素を行き来しながら展開される授業スタイルに、毎回生徒たちは「今日はどんな新しい話しが聞けるだろう?」と期待とワクワクしていました。

未来を切り開く力を伸ばす
アントレプレナー教育の手法

新規事業のあり方について学習したあとは、実際に企画を考えます。

松茂の魅力はなにか?
その新規商品の特徴は?
誰がどういうシーンで使うものか?
どういう困りごとを解決するアイデアか?

こうした中村先生の問いかけが、みんなの思考を進ませました。

グループワークをする松茂中の生徒たち

「5~6人でひとつのチームになり、これまでの授業をもとに『なにができるか』を考えます。


「小学校低学年では、知識に捉われない解決方法やユニークなアイディアが出ます。ドラえもんの道具のようなもの、科学的に飛躍しすぎているものが出てくるという特徴もあります。

中学生になると情報の引き出しも豊富になり、その結果、新しい技術開発やテクノロジーの進化を待つのではなく、いまあるものを組み合わせて実現の可能性を考えられるようになっていきます」。

オリジナルのアイデアシート

「企画書をつくるときに不可欠なオリジナルのアイディアシート。」


誰のためのものか?
そもそもなぜ、やりたいとおもったのか?
その商品には、ほかにはどんなメリットがあるか?
では、いま社会ではどういうこと(現象)が起きているか?

中村先生は授業を通して「問題解決力」に必要な問いかけを繰り返し、生徒たちの興味の扉をたたき続けていきました。

年度末に全学年の前でプレゼンテーション

一年かけて取り組んだ「地域の魅力を発信する新規事業プロジェクト」。
最後は大勢の前でのプレゼンテーションのため、生徒たちは、学んだ知識や得た情報を加え、スライドや資料を仕上げます。

パワーポイントでプレゼン資料を作る生徒

「パワーポイントの使い方はもちろん、スライドを『どう魅せるか』『3分でどう伝えるか』も学んでの挑戦。」


生徒たちのプレゼンを聴く中村先生と後藤先生

当日のプレゼンテーションでは、限られた時間で企画や商品の魅力、ターゲット、なにを解決するのかを伝えていきます。そこには、”思考したもの”がギュッと詰め込まれていました。

松茂町でつくられる梨の廃棄分を活用し香りを楽しむ食品ロスの観点から生まれた企画。コロナ禍でzoom鑑賞していた中村先生と後藤先生に、笑顔がこぼれます。

アップデートし続ける授業が
STEAM教育を実現する

話題性や即時性の高いニュースを取り入れ、実用的なツールを使い、社会で活かせるスキルを学ぶ授業のなかには、「世の中にある問題や課題は学校教育で得る知識だけでは解決できない」というメッセージも込められていました。そしてこのメッセージは、生徒たちだけでなく、先生方にも向けられたものでした。

実はここにこそ、中村先生の”本当の狙い”がありました。

先生の指導の下、課題に取り組む生徒たち

「STEAM授業では、既成概念に捉われず、子どもたちの自由な発想をどこまで広げていけるかが重要です。」

「技術は目まぐるしいスピードで進化し、社会も変化しています。そんな未来に対応できる人材を育てるためにも、教科で区切らず、常にアップデートしていくSTEAM授業でなければいけません。

しかし先生方には、教科教育はもちろん、不安定な思春期の子供たちが安心して過ごせる環境づくりなど、学校の中での役割や使命があります。STEAM教育を実現するためにも、企業や専門家との連携も含めた”学校の外”にあるスキルやアイディアをうまく活用してほしいと考えています」と中村先生。

基礎力として大切な「従来の教科学習」と、思考を鍛えて問題解決力を伸ばす「プログラミング学習」を組み合わせることが、本当の意味での「STEAM教育」だと中村先生は話します。地方だからできないのではなく、地方だからこそできる方法で未来を切り開く力を育む、そんな思いが込められた松茂中学校二年生のSTEAM授業でした。

ライター紹介

宮本幸子(みやもとさちこ)/地方でも実現できる「プログラミング的思考を育むSTEAM教育」に関心を持ち、株式会社ヴィリングが提供する公立小中学校のSTEAM教育を取材中。タウン誌の編集やラジオリポーターを経て、現在はライター・講師として活動。徳島県在住、二児の母、1980年生まれ。