幼稚園・保育園でのSTEAM教育のはじめ方
当社では、創業以来一貫してSTEAM教育プログラムの運営に取り組んでおり、運営スクールのSTEMON(ステモン)では幼児・小学生向けにものづくり教育を実践しています。本記事では、STEAM教育の実情と将来性、そして幼児教育におけるSTEAM教育についてご説明し、幼稚園・保育園の中で行えるプログラムをご紹介します。
STEAM教育とは?
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の5つの学問領域の頭文字を合わせた教育用語です。2016年ごろから教科横断的に理数分野を学習するSTEM教育が広がってきましたが、近年では、表現する力も伸ばす学びが推奨されていることもあって、アートのAを加えたSTEAMの表記が多く用いられています。公教育への導入がなされている「プログラミング」や「探究」はSTEAM教育の要素の一部分といってよいでしょう。
科学技術基本計画では、Society 4.0と言われた現代の情報社会から、情報を使って何をするかを強く求められるSociety 5.0※(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/)へ移り変わっていくことが広く提唱されており、これから先の世界を生きていく子どもたちは、AIをはじめとした種々のテクノロジーを活用する力をつけたうえで、幸せの価値を個々人で創造する必要があります。STEAM教育を受けることで、そういった力を養うことが可能です。
※Society 5.0…狩猟社会⇒農耕社会⇒工業社会⇒情報社会に続く人類史上5番目の新しい社会(≒AI社会)の定義で、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されています。
STEAM教育の学び方
STEAM教育は、これまでのように先生が子どもたちに指導をしながら学んでいくものではありません。先生の役割は、楽しく、分かりやすい授業を展開することから、子どもたちの問題意識を高める・考え方を教える・解決策を導くことに変わります。必ず網羅しなければならない内容や教科書、テストがあるわけではありませんので、子どもたちの主体性が磨かれることになり、学びが深まります。勿論、基礎学力や基礎知識が無ければ、問題提起したことを探究することはできませんので、教科学習はこれまでとおりしっかり行うことが望ましいです。その際、※EdTechと呼ばれる個別進度学習に合った教材も効果的です。
※EdTech…教育(Education)× テクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、デジタル技術を活用した教育技法です。GIGAスクール構想と密接に関連しています。
幼稚園児・保育園児だからこそSTEAMで伸ばせる力
先に述べた主体性を育むことで自己肯定感が生まれ、意欲や粘り強さが活性化されるので、思考力や表現力の向上に繋がります。また、STEAM教育のレッスンは、周りとの対話の中で学びを深めていく要素もあるため、協調性を養うこともできます。これらは、非認知能力と呼ばれ、教科教育では伸ばすことが難しい素養です。また、近年流行をみせているプログラミング教育だけでは学ぶ内容としては少し物足りなさを感じます。特に幼児期は、非認知能力を顕著に伸ばすことができる期間ですので、できるだけ幼稚園・保育園に通っている時期から、STEAM教育に触れさせ、常に身近にあるものとして認識をさせておきたいところです。
ここまでは、STEAM教育の全般的な内容について触れてきました。ここからは実情を説明していきます。
日本でのSTEAM教育の促進
日本のSTEAM教育は、今まさに導入期であるといえます。文部科学省と経済産業省が主体的に国家施策としてプロジェクトを進めています。
●文部科学省視点でのSTEAM教育
文部科学省による政府報告書では、先にも述べたSociety 5.0との関連付けがなされています。平成30年(2018年)6月に「Society5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」が公開され、「機械を理解し使いこなすためのリテラシーや、その基盤となるサイエンスや数学、分析的・クリティカルに思考する力、全体をシステムとしてデザインする力がこれまで以上に必要な力となる。」と記されています。また、平成31年1月には「今後の教育課程の改善について」という文書内で、それまでに公開したものを抜粋しながら、方針や今後の教育の在り方をまとめています。
●経済産業省視点でのSTEAM教育
教育施策の中枢を担う文部科学省だけではなく、経済産業省も教育改革に乗り出しています。「未来の教室」※(https://www.learning-innovation.go.jp/)と名付けられた事業を設置し、これからの教育に関して、①学びのSTEAM化、②学びの自立化・個別最適化、③新しい学習基盤づくりを3つの柱として提言しました。ここでは、①学びのSTEAM化について、少し深堀します。
※未来の教室…STEAMライブラリーというオンライン図書館も開設されており、そこでは実際に公教育や民間の場で実践されたSTEAM教育コンテンツが閲覧できます。
●学びのSTEAM化
未来の教室の学びのSTEAM化で目指していることは、“一人ひとり違うワクワクを核に、「知る」と「創る」が循環する、文理融合の学びに”とまとめられています。これは、文系や理系といった学問領域にとらわれずに知識を習得し、探究・プロジェクト型学習の中で、その知識に基づいた創造性や論理性を育み、未知の課題やそれに対する解決策を見つけ出せるようになるということです。企業や大学の研究室単位では、分野横断的な課題解決は当たり前のことかもしれませんが、それを子どもたちに体感させ、習得させるべきだと考えられています。さらに、学びのSTEAM化を実現するためのステップとして、”幼児期から学齢期にかけての基礎的なライフスキルや思考法の育成が注視されており、それに準ずるSTEAMプログラムが必要”とされています。
STEAM教育と学校教育ー幼稚園・保育園から高校までー
では、学校教育ではSTEAM教育はどのように導入され始めているのでしょうか。現在は、STEAM教育の一部であるプログラミング教育を中心に拡がりをみせている状況です。
●小学生に対して
プログラミング教育ポータルというWebサイトに全国の公立小学校での取り組みがまとめられています(https://miraino-manabi.jp/content/507)。ScratchやViscuit等のビジュアルプログラミング言語※を用いて、図形の特性を学んだり、ロボットを制御したりする授業が展開されています。どのように取り入れているかは各学校の裁量に任されている部分が多いようです。宝仙学園小学校(東京)、相模女子大小学部(神奈川)、立命館小学校(京都)等の私立小学校では、体系的な授業展開がなされており、PCに触れながらプログラミング言語を習得していくことが可能です。また、山脇学園中(東京)の探究サイエンス入試や東京立正中(東京)の自由研究SDGs入試などのSTEAM関連入試も年を追うごとに多様化しており、種々のスキルや経験を持つ児童の需要がどんどん増しています。
※ビジュアルプログラミング言語…「テキスト」ではなく、「ビジュアル」をベースに絵や背景を動かすなど、視覚表現でコンピューターに命令を出し、動作させるものです。一般的にプログラミングといえば、アルファベット表記が基本ですが、アルファベットがあまり分からない年齢の子どもでも、自主的に取り組むことができます。Scratchについての解説は過去の記事⇒(https://www.stemon.net/blogs/11113/)を参照してください。
●中学生に対して
新しい学習指導要領の下、本年(2021年)より、技術・家庭科の技術分野を中心に、プログラミング教育が進められます。技術の授業で学ぶ内容は大きく分けて4つありますが、そのうちの一つ「情報の技術」でプログラミング教育が行われます。指導要領の改訂では、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」という項目が新たに組み込まれており、小学生との違いとしても、より問題解決能力の向上が求められています。文部科学省により、実践事例集も公表されています(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00617.html)。一方で、複数の小学校から集まった生徒が通う中学校では、個々人のプログラミングに対する素養が統一されていないこともあり、足並みを揃えて学習をすることに課題が残されています。
●高校生に対して
小中学生に比べると、科目的な要素が深まります。次年 (2022年)度から情報が科目として必修化され、文系・理系問わずに、すべての高校生がプログラミング教育を受けることになります。その代の生徒たちが大学入試に挑むタイミング(2025年)では、共通テストに試験科目に「情報」が追加されることも決定しています。情報セキュリティに関する知識や、プログラミング手順についての知見について問う試験になりそうです。また、同じタイミングで、社会系の科目で地理探究や日本史探究、世界史探究といった「探究」科目も試験に追加されます。実は、この「探究」に関しては新学習指導要領で、理数や古典の授業内にも導入がなされ、学校の中では全員が学んでいくことになります。私立高校の一部では、STEAMという科目を設けプロジェクト形式を学ぶ活動もはじまっています。
●幼稚園・保育園の未就学児に対して
小学校から高校までは繋がりがみられる中で、幼稚園や保育園に通う子どもたちに向けては、STEAMに直結するプログラムの導入はなされていません。しかし、最新の保育所保育方針や教育要領には「主体的・対話的で深い学び」という言葉が使用されています。1876(明治9)年に日本発の幼稚園が東京女子師範学校(現:お茶の水女子大学附属幼稚園)に付属幼稚園として創設されて以降、幼児教育は、“「遊び」を通しての「学び」で子どもの能力を発達させる”という観点が重要視されながら進められてきましたため、これまでの教育を昇華させていくことでSTEAM教育の実践が可能になると考えられます。小学校以降の公教育でも必修化がなされたいま、年中・年長のある程度言葉の理解が進んできた段階で、STEAM教育に触れておくことは、成長の過程で必要であるといえます。
幼稚園・保育園とSTEAM教育の相性
幼児期のSTEAM教育の重要性に着目し、全国各地の先進的な園では、すでに教育プログラムとしてSTEAMを実施している所があります。ほとんどが、先生方の工夫によってなされているもので、これまでに園の中で行ってきた創作活動に付加価値をつけたようなものになっています。具体的には、「今作ったものより遠くに飛ぶ紙飛行機はどのように作れるかな?」や「砂で形を作りやすくするためには、どのくらいの水が必要かな?」という内容です。保育の中で実践されているものづくりは、先生が課題設定をしやすく探究に結びつけやすいということです。保育とSTEAMの組み合わせが非常に良いと言い換えることもできます。
STEAMに触れた子どもたちが将来どのようなことに興味を持ち、どのように成長していくのかとても楽しみです。コロナ禍の影響もあり、おうち時間が増えているため、ご家庭で取り組むことができるSTEAM教材もどんどん増えてきています。しかし、幼稚園・保育園のお友だちと一緒になって創作活動に取り組むことができれば、協調性を養うこともでき、まさにSTEAM教育で伸ばしたい力をより効率的に習得することができるようになるでしょう。
幼稚園・保育園の経営とSTEAM教育
次に、幼稚園・保育園の経営という視点からSTEAM教育の重要性について考えたいと思います。
大きな問題として度々ニュースにも取り上げられてきた、待機児童の解消のため、保育の受け皿を整備する施策が実施されてきました。待機児童解消加速化プラン⇒子育て安心プラン⇒新子育て安心プランです。厚生労働省主体のこの取り組みにより、待機児童数は2020年(令和2)年4月1日時点で12,439人と、2017(平成29)年の26,081人から3年で半数以下になっており、改善傾向にあります。依然として、保留児童の問題は残されているものの、今後数年内には大都市圏でも一定の落ち着きをみせると予測されています。
そのような状況になると、幼稚園・保育園は「選ばれる時代」に変遷していくことが想定できます。保護者の皆さまや地域の方は当然、安心・安全で質の高い保育を期待されることと思いますが、それと同等なレベルで、大切なお子さまが通う幼稚園・保育園の教育に関しての先見性や取り組み内容についても評価されるのではないでしょうか。周りの園との差別化を図り、信頼される幼児教育を実行していく手段として、STEAM教育プログラムの導入は適切な事例の一つであると考えられます。
ステモンのレッスン
我々が運営するSTEAM教育スクールのステモンでは、「つくることで学ぶ」をコンセプトとしています。1回のレッスンの中で、「学ぶ」⇒「つくる」⇒「試す・表現する」というサイクルを取り入れ、プロジェクト形式で身の周りの構造や現象について理解を深めます。プログラミング教育でも条件設定をする力や、試行錯誤をする力は十分に伸ばすことができますが、ものの構造やその組立ての仕組みは、手を動かして、目の前に表現をして初めて実感できるものです。ステモンのSTEAMレッスンには次の要素を盛り込んでいます。
①1人1セットの教材 ②組立て説明書はなし ③発達段階に合った学びの選定
それぞれ、
①自分のものづくりに熱中してもらう⇒主体性、意欲
②試行錯誤しながら、自己表現をする⇒創造力、自己認識、粘り強さ
③同年代と、操作できることを通して学びを深める⇒協調性、コミュニケーション能力
という設定理由があり、お子さまの学習効果を高めるためには、できるだけ同時に満たされながらレッスンが進行されることが理想です。
ステモンが提案する幼稚園・保育園でのSTEAM教育
(ようほすてぃ~む)
ステモンでは、幼稚園・保育園の中で、先生方と子どもたちが一緒に熱中して楽しくものづくり学習を行えるように、新しいSTEAM教育プログラム(ようほすてぃ~む)を開発しました。従来、ステモンで年中・年長のお子さま向けに行っているレッスン内容を反映させたものになっていて、すぐに幼稚園や保育園で始めていただける仕様です。レッスンプランは複数用意しておりますので、状況に合わせてお試しください。
繰り返しになりますが、STEAM教育の指導方法に正解はありません。一つひとつの場所、そこにいる一人ひとりの先生方や子どもたちによって沢山アレンジされていくことを期待しています。ステモンのカリキュラムはどんな変化にも柔軟に対応することができるように作り上げられているので、幼稚園・保育園といった教育環境でも安心してご使用いただけます。 AI社会で生きる子どもたちを、教育活動で支えていくためにも、ご協力いただける幼稚園・保育園の経営者の方々や先生方と一緒に、『保育×STEAM』、『保育×ものづくり』の開拓者として、必要性を伝播していきたいと思っています。